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2日目からは、大人の声優さんのアフレコが始まる。その前にひとつ、父三太郎と仁太郎の会話を撮ることになった。子役の村田くんは昨日に続き朝10:00から参加してくれた。
佐藤氏「父ちゃんが死んじゃって、母ちゃんもいないし。目も不自由で、本当につらいんだよ。きっと村田くんが考える以上に。これからどうしよう、と、ひざをかかえてるんだ。もっと泣いていいよ」
「はい」うなづく村田くん。この返事の後すぐに1回のやり直しで、その悲しみとつらさを表現してくれた。
川面に現れる父ちゃんに励まされるシーンは、さらに難易度が高かった。
『父ちゃんオレやっぱり三味線やる』というセリフ。
「父ちゃんは、もういないんだ。だからそこにいる人に呼びかけちゃダメ。これは自分へのつぶやきだ。仁太郎の決心なんだ」と佐藤氏。
こんな無理とも思える要求に応えられるのだろうか? スタッフの心配をよそに、何度もくり返し佐藤氏の注文レベルに近づいていく。
この間、一緒にセリフを読む父、三太郎役の大塚明夫さんは隣で心配そうに村田くんを見つめる。
そうこうするうち、大塚さんが、ちょっと素敵なアドヴァイスを下さった。台本を指さし「この部分で一度深呼吸(しんこきゅう)をしてごらん。そして“三味線やるぞ!”って。」村田くんの胸をさすって、「ここで一呼吸だよ」と。
モニター室の監督も「さすがにベテランの方のアドヴァイスだね」と感心して見守る。この2人の会話シーンは、物語前半の大事な場面だ。妥協はせず、ほぼ1時間かけてとり終えた。残るは大人のアフレコ。ややスピードアップで録音作業は進められた。
今回の声優キャストの中には有名な方がたくさんいる。
父親役の大塚明夫さんは、テレビ放映される映画「沈黙の戦艦」等でいつもスティーブン・セガール役の吹きかえを担当している。なるほど声はもちろん、風ぼうまで似ている。
ゴゼさんのたまな役を務める勝生真沙子さんも、「美少女戦士セーラームーンS」のみちる役、セーラーネプチューンや「ブラック・ジャック」に出演。数々の声で知られる。
また、近ごろ注目されているのは、留吉役の平田広明さん。NHKで放送された「ER緊急救命室」の二枚目カーター役を吹きかえ、人気急上昇だという。
「いつも劇団でも二枚目役が多いんですよ。留吉のような三枚目はめずらしいんです」と笑って答えてくれた。
他にも、納谷六朗さんや谷育子さんなど大御所の名前が並ぶ。
もうひとつ、キャストの特徴は、劇団の方が多いこと。主人公の仁太郎、ユキ、菊之助といった主要な役どころは、それぞれ“こまどり”“劇団民芸”“文学座”に所属している3人ともアフレコは初めての挑戦だが、劇団での芝居は定評のある若手実力派だ。「NITABOH」の時代背景や物語の難しさ等で彼らに白羽の矢が立った。日野さんは前日も1日スタジオに詰めて、じっと子役のアフレコを見ていた。今日は出番がないのに? 「ええ、子役の声や雰囲気を見ておいた方がいいと思って」と。研究熱心な姿に皆頭が下がる思いだ。ユキ役の花村さんに至っては、ほとんど全編ダメ出しがない。スーッと物語の状況に入っていき、控えめながら仁太郎を支えるユキの声を熱演してくれた。
古い権威にしがみつくボサマ達に、邪魔者扱いされいじめられる場面では、佐藤氏から「ここはやられっぱなしなんだ。息づかいも、余力が残ってちゃダメ。防戦一方の雰囲気で」と要求される。
ここまでくると、単に声をふきこむというより舞台の演技と変わらないものがある。日野さんの少し控えめで、なのに芯の強さを感じさせる声がとてもいい。さて、残る今井さんは、こうじ屋の息子菊之助役だ。セリフが始まったとたんに、スッキリとした声に皆うっとり。育ちの良いおぼっちゃん役にピッタリで、仁太郎との会話のシーンも順調に進んでいく。
お松は、渡し場近くの宿屋のおかみ。父が亡くなった後、何かれとなく仁太郎の世話をしてくれた人物だ。頼りがいのあるめんどうみのいい役どころは、山本与志恵さんが演じてくれる。ゴゼのたまなに声をかける場面では――。『この神原へは何年ぶりになるかね』のセリフ。ここで佐藤氏から鋭い指摘が出る。「ちょっと上品すぎる。東京浅草のおかみさんって感じだよ。それと、もう少し太っ腹っ て感じを出して」。「NITABOH」は津軽の話だが、今回ことばは標準語を使っている。確かに、あまり早いテンポでしゃべると都会的に聞こえてしまうのも無理はない。現代と同じことばで、時代と土地柄、さらにキャラクター像を表現するのだから、プロの声優さんといえども皆さんかなりの工夫と努力をされた様子が伺える。山本さんもいろんな言い方で3回のトライ、ようやくOKが出て、本番録音に至った。
ストーリーにそって、アフレコは進められるが、時々佐藤氏、「それではガヤよろしく!」と皆に声をかける。“ガヤ”って? ガヤガヤのことなのだ。声の背景とでもいえば分りやすいだろうか。例えばお祭りの場面や神社の境内、舟の渡し場付近では、常に人の声がガヤガヤとしている。
それを何人かで録音する。「ここは全員で」「渡し場は7〜8人ですね」と西澤監督が人数を指定すると、なんとなく皆がしゃべり始める。
決まったセリフがあるわけじゃないのに、それぞれに「あ〜ら久しぶりだね」「何?お面が欲しいって?」「足はもう良くなったのかい?」と思い思いにしゃべるのだが、“ガヤ”はセリフが際立ってはいけない。何となく聞こえるというのがいいのだ。皆でしゃべってセリフが重ならないのも、見ていて不思議だが、皆さん“ガヤ”も慣れたものらしい。
そのうち、ミキシングの成田さんから「シャッフルして下さい」との指示が出る。
今度は“シャッフル”? シャッフルとは人の場所をかえること。これで“ガヤ”に多様性がでて、より複雑になる。
いくつか合成して距離感や奥行きのあるガヤガヤをつくっていくのだという。
この後も順調に進んで、2日目の目標通り、Bパートまでを終了することができた。西澤監督が何度か口にしたことばは、「皆さんセリフはじょうずだけど、間(ま)が大切。このアニメは間を大事にしてほしい」。プロの声優さんにとっても、技術と配慮のいるところだった。3日目も大事な場面が続く。
芸に行き詰まりを感じ、和尚のすすめでイタコの修行に出る仁太郎だが、イタコ役の谷育子さんは圧巻だった。
イタコとは、今も東北地方(特に恐山(おそれざん)付近)に残る死者を呼びよせる巫女(みこ)のことで、ブツブツと呪文を唱える。実際にスタッフがイタコの口寄せを体験して、呪文のセリフもだいたいのものを作成したが、おどろおどろしい雰囲気を十分に表現してくれた。さすがにベテラン。
もちろん谷さんにとってもイタコ役は初めてのはずだが、画面のイタコの絵と谷さんがピッタリと重なっていく。所属会社の社長から「芸名を谷イタコに変えようかな」なんて冗談も出て、大爆笑。大ウケだった。
さて、3日目は、ちょっとしたトラブルが発生。菊之助が、仁太郎に刺激を受け、改めて自分の夢を追うために、手紙を残してアメリカへ旅立つ場面だ。ここは手紙の文面が、絵に写し出されるのだが、画面の文とセリフが違っている。作画の手配ミスが原因らしい。急遽セリフを変更することに……。ただ当然、絵の長さは変えられないので、それに合うようしゃべらないといけない。そろそろ物語もクライマックス。仁太郎とユキの大事な会話や、十年に一度の天才といわれる田原坊との三味線対決シーンへと続いていく。盛り上がるシーンは数々あるが、それは映画を見てのお楽しみに残しておくことに。3日間のアフレコを通して、アニメの完成をひしひしと感じている。本当に皆さんお疲れさまでした。
アフレコ終了後のちょっとしたパーティー風景。監督や佐藤氏、声優さん達の情報交換が活発に行われた。
 
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